哲学するイモリ

自意識過剰な大学生がジタバタします。音楽や映画が好きです。哲学はしません。Twitter @keinewt

デザートを食べながら泣いていた男女

飲食店のキッチンでアルバイトをしている。

その日は、キッチンから一番近いテーブルに2人組が座っていた。バースデープレート付きの予約だった。
冴えない感じの男性と小綺麗な女性だった。2人とも20代のようだ。カップルだろうか?不釣り合いだな、客席を覗いた僕は失礼にもそう思った。会話は少なく、かと言ってくつろいでいるようでもなかった。ほかの客と同じように酒を頼み、サラダから始まりメイン料理に至る。


「あの、バースデープレートを予約されてるテーブルで、男性の方が会計を頼んできたんですけど」と、 ホールの子が少し困ったように言った。ごまかして、済んだ皿を下げて戻ってきたという。
予約の際には、誕生日のお祝いで、「かおる」さん宛だと伝わっているらしかった。小綺麗な「かおる」さんの誕生日だというのに、男性はバースデープレートの存在を忘れてしまったのだろうか。それとも(かおるっていうのは中性的な名前だし)、男性が「かおる」で、バースデープレートの存在を知らないから会計を頼んだとか?

予約のメモには、
『BDプレート かおるさん
照明、音楽なし 花火あり』
とあった。

かおるさんがどちらなのかは分からない。予約を受けた誰かのミスだ。
このとき気になったのは、照明や音楽などの演出を拒否していることだ。通常 お祝いのプレートが出る時は照明を暗くし、バースデー用の音楽を流し、ほかのお客様にも拍手をさせるような雰囲気を作る。しかし、予約した、「かおる」じゃない方のひとは、わざわざ確認の上拒否したようである。
それにしても、かおるさんは?
帰る前にデザートプレートを出したいのだが?


5分後、社員さんはバニラアイスやチョコレートケーキ、オレンジやレモンを盛ったバースデープレートを完成させた。何かもう少し華やかに出来ないものかと僕は思った。
文字は『Happy Birthday かおる』
僕はアイスに棒のついた花火を刺し、点火して、ホールの子に渡した。彼女が少し緊張しながら運ぶのを後ろから見ていた。その2人組は、先程よりもさらに会話が少なくなっているように見える。
「お誕生日、おめでとうございます」
僕を含め店員たちは、いつものように拍手をぱらぱらとした。音楽はいつも通りの、ただの洋楽だった。拍手はほかのテーブルの話し声の中に紛れた。
2人組は、真顔でプレートを見ていた。


ホールの子がこちらに来た。
「どういうこと?? 結局どっちがかおるなの?なんで無反応なの?」
「さあね」分かるはずがなかった。


しばらくしてからそのテーブルを見ると、2人はデザートを食べていた。相変わらず無言で。
何かおかしいと思ったら、女性が泣いていることに気付いた。

なんで泣いているんだろう?
バースデープレートを食べながら泣くとは、なにかあったんだろうか。男性の方は、少し困ったような顔をしていた。
次の瞬間、あるストーリーが思い浮かんだ。



まず、2人はカップルじゃないのかもしれない。2人のどちらも、「かおる」じゃないのかもしれない。
思い込みを取り払ってみよう。
だとしたら、悲しそうに泣くようなバースデープレートってなんだろう?
「かおる」さんは、もういないんだ。僕はそう思った。

2人にも名前を与えたい。「さとし」と「あい」にする。3秒ほど顔を見て決めた。
「さとし」、「あい」、それから「かおる」は、高校の同級生だった。
さとしとかおるは、同じ部活だ。運動部。サッカーとか。それで、さとしとあいは中学の時から友達だ。自宅から少し遠いにも関わらず、高校も同じ。さらに奇遇なことに、3人は高1で同じクラスになった。それ以来 友好を深めた3人は一緒にいることが増えたはずだ。
もうこれは確実に、さとしはあいのことが気になっている。でもあいはモテるし、2人は友達でいる時間が長すぎた。さとしは来る日も来る日も外堀を埋め続けているばかりで、城を落とすのはいつになるのか、分からない。
そして、あいの方は、かおるが好きだ。間違いない。かおるは美形だ。肌が綺麗で、髪がさらさらしている。身長は175。その爽やかな外観は人気がある。
かおるは、彼女がいることが通常運転。でも、あいの気持ちは満更でもない。

甘酸っぱいまま、青春は崩れる。
かおるは、交通事故で亡くなった。全くドラマチックなことはなかった。当然ながら突然で、あっけない

さとしは部活を辞めたし、お喋りなあいは大人しくなった。

2人は、別々の大学に進学した。連絡は年に数回は取っていた。
就職もした。2人は、かおるのことを忘れないようにと、かおるの誕生日は毎年祝った。
さとしは、今年もあいを誘った。
さとしは、自分でも飽きれていたが、あいのことが頭から離れない。学生時代から、あいに会うためには、理由が必要だった。今、その理由にかおるを使うことは、やはり罪悪感があった。


――――バースデープレートが運ばれてきた。2人は、静かにそれを見つめた。拍手が耳障りだった。
さとしには、アイスに刺さった花火が、線香のようにも見えた。不謹慎だな俺は、と少し困り、笑えてしまった。火薬の匂いが鼻をくすぐる。
あいは、涙ぐんでいた。不意にスプーンを手に取り、食べ始めた。かおるはチョコレートが好きだったなと思い出した。テストで負けた時を除けば、2回しかあげられなかったな。毎年あげたかったな。涙はこぼれた。
その横顔を、さとしは黙って見ていた。




――――例の2人組が、退店した。僕は見送りに出るのはやめておいて、とんできたオーダーをやり続けた。
少ししてホールの子が来た。
「さっきの2人、やっぱり別れ話してたみたいですよ」